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Slaughter of the Innocents ザ・スローター/赤い迷宮

アメリカ映画 (1993)

ジェシー・キャメロン=グリッケンハウス(Jesse Cameron-Glickenhaus)が主演するサスペンス映画。共演は、スコット・グレン(Scott Glenn)。監督はジェシーの父親のジェームス・グリッケンハウス(James Glickenhaus)。監督が、自身の映画で、息子を、子役として主演させるという例は聞いたことがない。しかし、この人選はきわめて的確だ。ジェシーは、可愛くて、賢くて、演技も上手いので、まさにはまり役といっていい。映画の原題は、『マタイによる福音書』にある、ヘロデ王による幼児虐殺を指す言葉。つまり、「幼児虐殺」だ。日本語の題名はひど過ぎる。「ザ・スローター」がなぜ片仮名なのか? これでは、誰も意味が分からない。そして副題の「赤い迷宮」。「赤」は血を指すのであろうが、これも何のことやら分からない。題名のお陰で、ジェシーという素晴らしい子役があまり知られていないとしたら、残念なことだ。

ジェシー(本名と役名が同じ)は、11才にもかかわらずパソコンをフルに使いこなし(今でも、これほど使える人は稀)、かつ、犯罪捜査も父親のFBIのベテラン捜査官と遜色がない。まさにスーパーボーイだ。その彼が注目したのが、2つの似たような事件。それが発端となり、狂信者が起こす奇妙で残酷な事件を追跡していくと、最終的にユタ州の国立公園内の廃坑に辿り着く。その中に作られていた現代の方舟(はこぶね)。そして、坑内や船内にあふれる惨殺死体。狂信者に捕まり、崖目指して動き出した方舟から、ジェシーは助かるのだろうか? パソコンに詳しい少年の映画としては、この映画の10年前に作られた『ウォー・ゲーム(WarGames)』があるが、この時、高校生役だったマシュー・ブロデリック(Matthew Broderick)は実は撮影時20才を超えていた。ジェシーのパソコンの腕は、映画史上No.1であろう。そうした設定も面白い。

ジェシー・キャメロン=グリッケンハウスは、父の監督した映画3本に出ただけで、俳優の道は進まなかった。それが残念なくらい魅力的な少年だ。日本ではビデオがあるだけで、画質が悪く魅力は半減するが、最近ドイツで製作されたブルーレイでは、その端正で、色白な顔立ちを堪能できる。


あらすじ

FBI捜査官のスティーヴン・ブロデリックの一人息子ジェシーは、犯罪捜査に興味たっぷりの11才の男の子。当時としては最新のパソコンを自室に置いて、データの収集に余念がない。今朝やっていることは、最近起きたティンバーレイクの幼児虐殺事件と、5年前のプロボ・キャニオンの幼児虐殺事件との奇妙な類似点の比較。学校に遅れそうになり、母に「家を出るまで7分しかないわよ」と怒鳴られる。「だんだんひどくなる」と父にグチる母。ジェシーは走って降りてくると、「行ってくるよ、ママ、パパ」と言い、朝食抜きであっという間に外へ。父は、「分かるな」とつぶやいている。しかし、父には、ジェシーから学校から電話が。至急なので、リトル・リーグが終わった後ですぐ伝えたいとのこと。試合が終わる頃を見計らって颯爽とバイクで乗り付ける父。近所の子供たちの憧れの的だ。ジェシーはさっそく、5年前のプロボ・キャニオン事件について、「未知の連続犯がいる。誤認逮捕だよ」と話し始める。最近のティンバーレイクでも、プロボ・キャニオンでも、事件の直前に黒い服の老婆が何かを摘んでいる様子が目撃されているというのだ(野球帽姿で説明するジェシーの表情が多彩ですごく可愛い)。もしそれが正しければ、5年前の犯人の死刑執行は明朝なのだ。急いでFBIに戻る父。
  
  

スティーヴンは、同僚の部屋にずかずかと入り、かけている電話を切らせ、「今すぐ、ユタ州のプロボまでジェットが必要だ」と言う。幾らかかるか知ってるのかと訊かれ、「9287ドル52セント」。ちゃんと調べてある。そして、午前0時24分にドレイパー連邦刑務所に到着。死刑執行は午前6時だ。刑務所長は「10分たりとも延期しませんよ」とつれない。父はジェシーに電話をかけて相談する。死刑の執行停止には物的証拠が必要だ。死刑囚が、虐殺の行われた部屋に入っていない証拠は“足跡がないらしい”ことだけ。これでは不十分だ。父が、「じゃあ、陰毛は?」と訊く。犯人は少女の口の中で射精したのだ。ジェシーは「1966年以降、972件中、間違いは4件」とすかさず答える。スティーヴンはこれに賭けることにし、地元で一番の犯罪科学の病理学者を深夜に呼び出し、DNA鑑定のやり直しを依頼する。FBI本部の協力を得るが、6時までには難しい。そして所長は、スティーヴンが新証拠に基づく赦免委員会の開催を促しても、聴く耳を持たない。結局、スティーヴンは無念の思いで死刑執行に立ち会う。写真で左下に白く写っているのが、ガラスに反射した薬殺される死刑囚。
  
  

空港で飛行機を待っているスティーヴンの元に、DNAが不一致だった(他に真犯人がいる)という報告が入る。それを受けて、スティーヴンが会議を召集する。ユタ州の検事総長と大学同期の同僚(それを鼻にかけている)が、検事総長は死刑囚が共犯者だったと証明したがっていると告げる。スティーヴンは、事件の全貌を詳しく分析説明し、最後に皮肉たっぷりに、「ハーヴァートのご学友に言ったらいい。ボビーは4件の違反行為で死後起訴できる。しかし、その何れも死刑には該当しない」と付け加えた。その後で、父はジェシーをティンバーレイクの犯行現場に連れて行く。ユタの件での感謝の気持ちだ。「このカーブで?」とジェシー。黒い服を着た老婆が何かを摘んでいた場所だ。おもむろに、生えている木の葉をちぎるジェシー。鼻を近づけた父が「セージだ」と言う。それが重要な手がかりとなる。
  
  

ユタ州で新たな殺人・窃盗事件が発生。その内容に興味を持ったジェシーが、早朝、旅行着姿で父を起こし、「8時30分にソルトレイクシティ行きの便がある。すぐに家を出ないと」と言い出す。「ママに聞け」と逃げる父。母は「早く大人になって欲しくない」と言うが、ジェシーは「早く大人になりたくなんかない。パパとユタに行きたいだけ」と言い、何とかOKをもらう。ユタでは、さっそく犯罪現場へ。父が中を見ている間、助手のロクサーヌと店外の足跡を見るジェシー。「怖いね。この人殺し、店から出たあと走ってない」「僕なら怖くなって走るんだけど」と言う。走れば、爪先の足跡の方が踵より深くなるからだ。ホームズも顔負け。これほど鋭い少年探偵は、他では登場しない。そこが、この映画の面白さでもある。その後、帰りの飛行機を待つ空港のロビーで、ジェシーが父に向かって事件を早口で分析する。身長6フィート2インチ、体重推定205ポンド、右利き…。車は67年以前のワーゲンのバン。「68じゃないと、なぜ分かる?」と父。「バンの下の泥に残ったマフラーの輪郭から、触媒コンバータがないから」。ここで2人が互いを指差すので、2人ともそう考えていたことが分かる。このシーンは、しゃべりまくるジェシーを360度回転しながら映していく。その表情も多様で可愛い。
  
  

2人が飛行機から出てくると、そこにFBIの連絡員が待っている。ユタで幼女誘拐事件が発生し、父は急きょユタまで戻ることに。この幼女誘拐は、GSに寄った母が、車に娘を残してお金を払っている隙に、バンに乗った髭もじゃの男が娘をさらっていったというものだった。ユタに連れて行ってもらえなかったジェシーは、夜遅くまでパソコンで他の事件との関連を調べている。
  
  

翌日、お昼にジェシーから父に電話が入る。これから始まる捜査の経過報告の内容を一刻でも早く聞きたいので、父の携帯をマイクのそばに置いて、自宅の音声応答パソコンに接続して欲しい、という頼みだ。そうすれば、学校にいながら父の報告が聴ける。トイレに行って、携帯をセットし、イヤホンを耳につけて見えないかどうか確かめるジェシー。ところで、この子の服装はいつも個性的で面白い。授業に出ながら、父の報告にじっと集中するジェシー。もちろん、授業はそっちのけだ。
  
  

ジェシーは、先日父に同行したユタでの殺人事件での動物の剥製盗難に興味を持ち、過去の情報を調べていて、ソルトレイクシティの動物園でのキリンのつがいの盗難に行き当たる。そして、これに事件の鍵があると思い、内緒でソルトレイクシティに行こうと決心。パソコンで飛行機を予約する。そして、明くる日、母には、友達と週末一緒に過ごすと嘘を付き、そのまま空港へ。搭乗券はクレジットカードで自動発行されても、搭乗口で小学生の1人旅行は止められる。そこで、子連れの家族にまぎれて機内へ。この時も、ジェシーの服装は非常に個性的だ。
  
  

動物園では、立入禁止区域の地下にいる男に会いに行き、「銀行から多額の現金を引き出し、家族を捨てて名前を変えて別人になりすましている」と暴露する。男を、“何でも言うことをきく”状態にした後で、4年前のキリンの盗難の犯人について質問する。そしてロッカーを開けさせ、中にあった証拠品を指紋がつかないよう、ビニール袋に分けて回収する。まさにプロだ。ホテルに子供1人で泊まれないので、ジェシーは中央駅に向かう。人気もまばらで、浮浪者が多くいる構内を気持ち悪げに歩くジェシー。特に、トイレに入った時は、いかにも不安そう。誰もいなくなってから、天井裏に這い上がる。そこで回収した証拠品をすべてチェック。その中にあった血文字で書かれた紙に、「汝が、尼僧や司祭を超越し、神の谷を歩む時に口にすべきは、罪悪の都の苦い苦菜のみ。汝がそれに値すれば、城に迎えられるであろう」という一文があった。
  
  
  

公衆電話から、自宅のパソコンに音声でアクセスするジェシー。動物園からキリンを盗み出した男の名前を言い住所を訊く。ユタ州モアブだ。「モアブの近くに、神の谷(Valley of the Gods)は?」。「ザイオン国立公園」。「じゃあ、尼僧、司祭、城(castle)は?」。「尼僧と司祭のモニュメント。キャッスル・ロック(Castle Rock)」。「キャッスル・ロックの近くに洞窟か鉱道は?」。「キャッスル・ロックの真下にウラン鉱。1953年9月土地管理局により閉鎖」。「キャッスル・ロックの緯度経度座標は?」。こうして、ジェシーは正確な場所を突き止めた。現地近くまで行き、レンタル・バイクで奥へ進んでいくジェシー。地図を見ながら、荒涼とした地形の中を近付いていく。グランド・キャニオンのような渓谷もある。
  
  
  

バイクで進めなくなったところから、徒歩で登る。急崖を越えると、上は真っ平になっていて、坑口の大きな木の扉からレールが真っ直ぐに伸びている。目的地に着いたのだ。父に報告しようと電話をかけるが、電波の状態が悪く(中継局などあるはずがない)、全然通じない。呆然とするジェシー。一方、父にはジェシーが何か叫んでいることだけは分かり、すごく心配になる。必死でジェシーのパソコンへのアクセス・コードを探り出し、声紋認証、本人確認を突破し、最後のコンタクト内容を訊く。そこで、緯度経度座標を聞き出し、車で直行する。
  
  
  

一方のジェシーは、翌朝、行動に移る。軌道に上がり、扉をくぐり、坑道の中へ。そこは異様な空間だった。片っ端から写真を撮るジェシー。あちこちに蝋燭が並び、死骸が木の台に打ち付けられ、人体の一部が切り刻まれてぶら下がったりしている。そして、目の前に大きな“ノアの方舟”が。舟に上がり、さらに写真を撮るジェシー。ミイラ化した死体。首のない死体。そして、そこには眠っている殺人鬼もいた。フラッシュをたいた途端に目覚め、ジェシーに飛びかかる。ジェシーは、必死で逃げようとするが、遂に捕まり、舳先に設けられた磔台に縛り付けられてしまう。
  
  
  

男は、これで方舟を発進させる準備が完了したとみなし、方舟を固定したロープを斧で断ち切る。レール上を動き出す方舟。そこに、ようやく到着した父。坑道の中に入ると、方舟が向かってくる。先端には絶叫するジェシーが。男が、「もし右の目、汝をつまずかせば抉りだして棄てよ。もし右の手、汝をつまずかせば切りて捨てよ」と唱えてジェシーに向かって斧を振り上げる。間一髪、銃で男を撃ち止めることができた。父は、坑道の柱をよじ登り、ジャンプして方舟に飛び乗る。ジェシーの綱を解こうとして、傷ついた男に棒で殴られ、今度は拳銃で仕留める。方舟は加速がつき、木の扉を突き破り、外へ。必死で飛び降りる親子。
  
  

方舟はそのまま崖から空中に飛び出し、谷の底まで落ちてバラバラになった。この部分はCGでなく、実物大の舟を使った実写なので迫力がある。
  
  

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